お見事 悩み事

 24時間テレビが始まった。夏休みの終わりが告げられたような気がする。あと数日で2学期が始まってしまうのに自分は何をやり遂げただろうか。毎日やらなきゃやらなきゃと思いながら逃げてばかり。夏休みが始まったばかりの自分に言ってやりたいね。結局勉強面のこと何もしてませんよって。

 悩み事は尽きない。一つ終わったと思ったらまた新しく出てくる。新しく出てきた悩み事の裏で細々と、しかし確実に訪れる大きな悩み事が進行している。消えることのない大きな悩み事の上に日々訪れては消えていく小さな悩み事が乗っている。そんな感覚。

 そんな中でも幸せはあるもので。自分のことを特別な呼び方で呼んでくれたり、部活とか外出から帰ってくるのを待っててくれたりする人がいるのは忘れかけていた感覚だった。すごく安心するし、いつだって誰かとつながっていたい自分にとってすごく心地がよかった。いや、現在進行形で。あまり書くと惚気のようになるからやめよう。然るべき時然るべき内容で書くべきだ。今はまだきっとその時ではない。

 

 自分は学校で生徒のことを名字さん付けで呼んでいる。授業中や部活中にも相手関係なく敬語で話していた。それは教育実習の時からそうだったし、いきなり来た新卒の教師が名字呼び捨てとか名前呼び捨てでため口だったらさすがに馴れ馴れしいし、偉そうじゃないか?と勝手に出した結論だった。生徒からしたら多分距離を置いてくるタイプとでも思われていたかもしれない。部活でも引退した三年生のことは今でも名字さん付けだし、練習中も試合中もずっと敬語で話していた。三年生は非常にキャラが強く、ちゃんと自我を持っているタイプだったので、極力やりたいようにやらせようと思ったから。3年間(正確には2年半くらい)の集大成をきっとポッと出の新人顧問にいろいろ口出しされたくないだろうと考え、基本受け身の姿勢をとっていた。そんな3年生も6月で引退し、新しい代がスタートする。きっと、自分がちゃんとに見てあげられる最初の代。恥ずかしい話だが、もう今から2年生が来年引退するのが寂しい。冬が来て、春が来て、引退。早すぎるな。このチームでもっともっと練習とか試合とかやりたいもん。こんな風に思えるのも自分の年齢が近いからなのだろうか。年を取ればそんなことも感じなくなってしまうのだろうか。今は若いからいわゆる友達先生のようにできているが、これからずっとそうはいかないだろう。その時が来たら自分はどうする?

 新しい代になって約2か月。大会がもう2週間後にも迫ろうかというある日。自分は頭を悩ませていた。これは本当に大きな問題だ。

『え?試合中部員のことをさん付けで呼ぶの?』

 幸いにも自分は経験した競技の顧問をやらせてもらっているから分かる。試合中に部員を名字さん付けする顧問なんて今まで中高6年間の競技人生の中で記憶にない。試合中に飛び交う声はどれも呼び捨てのもの。さん付けの指示、怒鳴り声、声援は聞いたことがなかった。3年生がいたときは特に何も考えていなかった。なぜだかはわからないけど。だがしかし、2年生の代になってからは話が違う。さすがにこれから練習で何度も顔を合わせ、何度も試合があるのにさん付けで呼び続けていたらきっとよくないと勝手に考えた。じゃあ呼び捨てにするか!となれば話が早いがこの文章を読んでいる人なら自分の性格をわかってくれているはず。いきなり名字呼び捨てにしたらなんだか偉そうだし、名前呼び捨てにしたら女の子が相手なので馴れ馴れしいなと思われそうだし、呼び方を変えれば敬語もやめなければいけなくなるわけで、急にため口??となりそうだしなどといろいろと考えてしまった。何人かに意見をきいたがやはり自分の中で正解を出すことはできなかった。

「いや待てよ?直接聞けばいいじゃないか」

 自分の中で決意が固まった。練習前にキャプテンに声をかける。

自「Aさん、部の存続にかかわる話があるから練習前にみんな集めてくれる?」

A「え、なんですか。怖いんですけど。」

自「いいから、集めて。」

 部員が全員自分の前に集まる。いつも部員に話をするときには立ちっぱなしだが、この時は雰囲気を出したくて座らせた。皆真剣な表情で体育館に座り込む。

自「そろそろ大会が近いじゃないですか?」

 当たり前だがこの時点ではいつも通り敬語で話している。

自「試合中みんなをどうやって呼ぼうか迷ってまして、、試合中さん付けで呼んでる顧問見たことないでしょ?だから呼び方変えようと思うんですけど何が良いですか?」

 部員たちはいっせいに笑い出した。くだらないことで悩んでいると思われたかもしれない。それでもいい。相手の意思を確認して変更したかったから。

自「わざわざ聞くなよって思うかもだけど、すごく気にしてしまうタイプで、急に名字呼び捨てにしたら~」上でした思い込みを部員にも説明をした。

 するとキャプテンが名前呼び捨てが良いですといい、ほかの部員も名前で呼んでほしいと続いた。

自「じゃあそうします!名前呼び捨てなのに敬語は変だから、ため口にしていきたいと思いまs、、、思う!」

こうして、名前の悩みは一件落着。呼び始めた当初は呼ぶことにすごく抵抗感があったし、なんだか照れている自分もいたが、今はもう何も気にせず呼べるし、話すこともできる。今後のことを考えるとこれでよかったのだと思う。あとから聞くと、名字さん付けと敬語は部内で辞めてほしいという話が出ていたらしい。結果オーライ。

 

 8月22日。大会当日。相手は強豪とまではいかないが、そこそこ強いチームだった(市原望洋)。1Qは対等に戦えていたが、2Qから少しずつ離されてしまい結果として4Q戦って20点差で負けてしまった。(高校バスケは10分で1Qでそれが4回ある。1,2Qが前半、3,4Qが後半という考え方)

 部員はよく戦ってくれたと思う。新チームになってから初めての公式戦だったから。でももっとやれるはずだった。さぼっているわけではないのだろうが、ルーズボールへの意識やリバウンドの意識はもっと高く持てるはずだった。(専門用語の解説はめんどいからパス!興味がある人は調べてみて!)

 試合後、相手の顧問に挨拶に行くと、選手の能力は志学館のほうが上ですよと言われた。きっとお世辞の意味もあっただろうが自分はそう捉えられなかった。選手の能力は上だがコーチがね、、と言われた気がしてずっと引っかかった。めんどくさい性格しているなと自分で痛感した。

 大会2日目。約50点差をつけて大勝した(姉崎高校)。今思えばいつも出れてないメンバーに出場機会を与えてあげるべきだったと反省。顧問になってからわかる部員のマネジメントの大変さ。勝つためにはベストメンバーで臨まなければいけない。そうすると出れないメンバーも必然的に存在しているわけで。自分は当時の顧問のお気に入りだったから1年生の時からバンバン試合に出してもらえてたし、何も考えたことがなかった。どれくらいの点差がセーフティリードで、強いメンバーを下げて、出れてないメンバーを出してあげられるのかわからなかった。もっと顧問として勉強しなければいけない。チームとしての大会はここで終わり。大会自体は3日目まであり、自分は引率がないのに役員として会場に一日いなければならなかった。普通に時間の無駄な気がしてならない。

 

 8月26日。また別の大会が始まった。志学館の試合は13時からだったが、審判として吹かなければいけなかったので、10時半に紅陵の会場へ。10分×4。審判をするということはプレーヤーと同じように走り回らないといけない。すごく疲れた。12時半に試合が終わり、志学館会場へ移動。安房高校との試合が始まった。前評判では志学館が負けるだろうという大方の予想だった。試合前、部員には「積極的なミスはOKだから。ドライブ切ってゴール下でブロックされてもなんも言わないよ。スリー打って外してもいいよ。打たなきゃ入らないんだから。でも消極的なミスはダメ。前が空いてるのに打たないとか、雑なパスして逆速攻喰らうとかはダメ。接触嫌がらないで、ちゃんと戦うこと、OK?」と話をした。なんでこんなに鮮明に覚えているんだろう。自分でもびっくり。試合が始まる。1Qはパスミスやディフェンスでのミスが目立つ。リバウンドもちゃんとやらない。タイムアウトをとり、いつもより強めに話をした。「やるべきことやらないと勝てないよ?」みたいなことを言った気がする。ここは覚えてないな。なんでだろう。話している最中あからさまに不機嫌な部員がいたので、ベンチにいた他の部員に聞いてみた。

「今日〇〇機嫌悪い?そうでもない?」その部員いわく、審判の謎判定にイライラしているとのことだった。というかこういうこともあんまり聞かない方がいいんかな。さすがにノンデリすぎた?

  2Qが終わって点差は18点ビハインド。正直敗色濃厚だった。自分が言ってしまっては元も子もないが。このまま3Q、4Qを戦ってもずるずる点差が開くだけだと思っていた。ウチのシュートはことごとく外れるのに相手のシュートはきれいに決まる。審判もウチに厳しいように感じた。負けてたからそう思っただけかな?どうこの試合を上手く畳むか。部員には言えないがそんなことも考えてしまっていた。2Qが終わると10分の休憩がある。部員の前に立つ。

 「今18点差でしょ?じゃあ3Q終わりまでに10点差か8点差までに詰めよう。で、4Qで同点に追いついて、勝ち越せばいいじゃん。難しいことじゃないでしょ?あと、スリー打っても良いからちゃんとリバウンドに入ること。ゴール下ちゃんと嫌がらないで戦うこと。ちゃんとやればファールもらえるから。で、審判と戦っても勝てるわけないんだから、イライラしないの。こっちが大人になるしかないよ?いい?さぼったらこのまま負けるからね。」

 みたいなことを言った気がする。正確には覚えてない。けど、下を向いてた部員をなんとか励ましたくて、現実味のある点差の詰め方・気持ちの持ちようを伝えたと思う。

 運命の3Qが始まった。連続で得点を重ねていく志学館。それまで落ち続けていたシュートが入り始めた。リバウンドもしっかりとしているし、パスカットやディフェンスも冴えている様に見えた。これは逆転ワンチャンあるなと思った。試合中は気づかなかったが、3Qだけでみると33-10と圧倒的な得点差を見せ、18点あった点差を追いつくどころか5点リードに変えてしまったのだ。正直鳥肌が立った。ここまでやり切れるのかと。顧問として何かをしてあげられたわけでもなく、ただ精神論を振りかざしただけだが、それでもうれしかった。3Qと4Qの間の2分休みには、

「追いつくどころか逆転したじゃん!リバウンド取って、ゴール下戦って、自分たちで流れ作ったから、外のシュート入り始めたんだよ。最後までやり切るよ。」

 そう言って送り出した。勢いは止まらず、得点を重ね、最終的には20点ほど点差をつけて勝ち切った。18点負けていた状態から20点リードして勝つなんて誰が想像しただろうか。他校の先生からも、あの状態からよく勝ったねなどとお褒めの言葉をいただいた。部員には今日の経験を自信に変えて、明日の試合も頑張ってほしい。

 短い高校生活の中で、やり切ったと思ってもらいたいし、自分も今の子たちとやりきったと思いたいから。大会はあと数えるほどしかないかもしれないけど、少しでも多くこの喜びを部員と分かち合いたいのです。

 でもきっと顧問をしていく中で部員がケガをしたり、辞めてしまうことは絶対に経験としてあるのだろうけど、いつか来るそれが怖くてたまらない。今の子たちですらケガしてほしくないのに、これから先何回もそんな場面が来ると思うと嫌すぎる。これが最初に行った大きな悩みの一例。いつか来る、細々とした、でも確実な悩み。そんなこと考えるなと思うかもしれないけど仕方ない。そういう性格だから。

 

 すごく自慢チックな日記のような文章になってしまったけど、それだけうれしかったってこと。生徒たちの頑張りがうれしすぎて文章にしてしまった。お見事だった。本当に。2学期が始まるという鬱々とした事実をその瞬間だけは忘れさせてくれていた。もう部活動のためだけに学校に行きたいまである。授業やりたくないから、部活動だけ見ていたい。なんていうのはすごくわがままなことなんだけど。明日が終わればいったん部活は3連休。いい形で終われるように頑張りたいね。

 

 バスケを知らない人にとってはなんのこっちゃな文章かもしれないけど、それでも誰かに自慢したかった。うちの子たち(言い方キモイ)はこんなにすごいんだぞって。部活やるとどうしても時間なくなりがちだけど、今はそれでいい。どんだけ身銭を切ってもいい。自分がちゃんと見る初めての代だから思い入れが違ってきているのかもしれない。何事もなく、引退まで突き進めますように。最近は部活も充実しているし、プライベートも充実してきている。長く、この気持ちが続けばいいな。

 

  バスケW杯が絶賛開催中です。確か27日の夜試合があります。興味があれば是非見てみてください。

 

 またね。